バイオリンを始めてしばらく経つと、「なんとなく音は出せるようになったけれど、音楽になっていない気がする」と感じたことはありませんか? 特に大人になってからバイオリンを始めた方に多く見られる悩みの一つが、「フレーズ感を持って弾けない」という問題です。
フレーズとは何か?
「フレーズ」とは何でしょうか? 簡単に言えば、音楽の中の“文節”のようなもので、言葉に例えるなら一文、あるいは意味のまとまりを持つ言い回しのようなものです。たとえば、「おはようございます」という言葉を「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す」と一音一音バラバラに発音すると、不自然に感じますよね。音楽もそれと同じで、フレーズとしてのまとまりを意識することで、初めて“音楽らしさ”が生まれます。
なぜ大人はフレーズ感を意識しにくいのか?
では、なぜ大人の学習者はフレーズ感を持って演奏するのが難しいのでしょうか?
1. テクニックに意識が向きすぎる
大人は理屈で理解しようとする傾向があり、「正確な音程」「リズム」「ボウイング」といった技術に意識が集中しがちです。それ自体は大切なことですが、その結果「音楽の流れ」や「表現」が置き去りになってしまうことがあります。ある程度基礎が身につくまでは、フレーズを意識することが難しいかもしれませんが、逆に、テクニックや的確な指導によってフレーズを作り出すことも可能です。
2. 楽譜通りに弾く=正解という思い込み
クラシック音楽の楽譜には細かな指示が数多く記されていますが、それらはあくまで「指針」に過ぎません。「楽譜通りに正しく弾けば音楽になる」という思い込みが、表現の幅を狭めてしまうことがあります。
レッスンで「これが正解ですか?」と尋ねられることがありますが、私は、音楽において「正解」というものは存在しないと考えています。練習方法も表現方法も一人ひとり異なり、その人らしい音楽を形作っているのです。
3. 音楽的な耳の訓練が不足している
フレーズ感を育てるには、「音楽を聴いて、感じて、真似る」という力が必要です。しかし、クラシック音楽に触れる機会が少ないままバイオリンを始めると、音楽的な耳が十分に育っていないこともあります。
フレーズ感を身につけるための具体的な方法
では、フレーズ感を意識して演奏できるようになるにはどうしたらよいのでしょうか? 以下に具体的な方法をご紹介します。
1. 歌ってみる
まずは、自分が弾こうとしているメロディーを声に出して歌ってみましょう。自然に呼吸が入り、フレーズの「息づかい」を身体で感じ取ることができます。どこで息を吸ったか、どこで息をたくさん使ったか──これらは、バイオリンの演奏にそのまま応用できるポイントです。
2. 優れた演奏を真似する
プロの演奏をよく聴いて、そのニュアンスや呼吸感を真似してみましょう。YouTubeなどで同じ曲を複数の演奏家の演奏で聴き比べるのも効果的です。
そしてお気に入りを見つけたら、その演奏を何度も何度も繰り返しきいてみてください。
可能であれば、その演奏と一緒に弾いてみるのもおすすめです。自分との違いを実感でき、学びが深まります。
3. フレーズ単位で練習する
いきなり曲全体を通して弾くのではなく、2〜4小節程度の「まとまり」で区切って練習してみましょう。その区切りごとに自然とフレーズの始まりと終わりを感じられるようになります。
このフレーズを理解するのが難しければメロディーの対話だとおもってください。
ひとつのヒントとしてお伝えしたいのが、
**「メロディーは対話(会話)だと思ってみてください」**という考え方です。
たとえば、次のような日常会話を想像してみてください。
Aさん:「おはよう、今日もいい天気ですね」
Bさん:「本当ですね。お出かけしたくなりますね」
この会話には、自然な「やりとり」があります。一方が話し、もう一方が応じる。相手の言葉に反応し、返す──これが会話の基本的なリズムであり、音楽のフレーズにも同じような“呼応”があります。
たとえば、バイオリンの小品やクラシックの主題では、
前半:上がっていくようなメロディー(呼びかけ)
後半:それに応じるような下がるメロディー(返答)
という構造がよく見られます。これを意識するだけで、音と音のつながりに「意味」が生まれ、ただの音の羅列ではなく、「会話のような音楽」になります。
難しく考える必要はありません。自分が話しかけているような気持ちで、あるいは「相手の言葉に返す」ような気持ちで音を出してみるのです。それだけで、フレーズの流れが自然になり、音楽がぐっと“生きたもの”になります。
4. 意識的に「呼吸」を入れる
演奏中にも呼吸を意識してみてください。フレーズの始まりで息を吸い、終わりで吐く。この身体の動きと音楽の流れが一致すると、自然に音楽が生き生きと感じられるようになります。
5. 先生に「歌ってもらう」
レッスンでは、先生にお手本として「歌って」もらうようお願いしてみましょう。先生の音楽的なフレーズ感を耳と身体で感じ取ることができます。
こうした瞬間の感覚は、先生から直接受け取ることが非常に大きな助けになります。「感じ取るのが難しい」と感じる方には、対面レッスンが特におすすめです。
フレーズ感は「感情」と「経験」で育つ
最後に大切なのは、フレーズ感は単なる技術ではなく、「感情のこもった表現」だということです。たとえ技術的に完璧でなくても、心のこもったフレーズには人の心を動かす力があります。
大人だからこそ、豊かな人生経験や感情を音に乗せて表現することができます。それこそが、子どもとは違う大人の音楽の魅力ではないでしょうか。



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